コーヒーを片手に人の輪を

コーヒーを片手に人の輪を

〜今月のこの人〜

三藤勝士(みふじ かつひと) ルート3コーヒー店主

◆コーヒーを片手に人の輪を

阪急水瀬駅からすぐ近くのところに、おしゃれで賑やかなコーヒースタンドがある。入ってみると、お客さん同士の会話が弾んでいる。コーヒーを飲みながら店主の三藤さんに取材しようと試みたが、次々と訪れるお客さんに押されて隅へと避難するほどであった。ここ「ROOT3 COFFEE(ルートサンコーヒー)」というカフェは、ただのカフェではない。人と人とがつながる温かな場所となっている。

三藤さんは奈良県で生まれ育ち、小学校時代は剣道、中学・高校はサッカーというスポーツ少年だった。大学の時に大阪へやってきてマーケティングを学んだが、それがのちに活きてくるとはこの当時知る由もない。当時から人を紹介したりすることが好きだった三藤さんは、100人規模のBBQパーティーを開催したこともあるという。

大学卒業後はいくつかの会社に就職する。「今もそうですけど、目の前のことに全力投球するんです」。あるメーカーに勤めていた時はテーブルクロスを当日朝に関空から運んでホテルに納入した。徹夜もいとわないのは少年時代に培ったものなのかもしれない。

奥さんとは学生時代からの知り合いだったが特に付き合っていたわけではない。社会人になって再び出会ったときお互いピンとくるものを感じたという。やがて結婚し二人の子を授かった。島本町には縁もゆかりもなかったが、三藤さんの地元と似通っており、また子育てをするにあたって、「水無瀬川や広い公園もありますし、空気も水もいい自然豊かなところに魅力を感じたんです」と、引っ越しすることに決めた。

最後の職場では、その利益優先の姿勢に疑問を抱くようになり、仕事が楽しくなかった。ある日のこと、会社に行くのが億劫で休みたかった。

「会社休んで、ご飯でも食べに行かない?」

奥さんのひと言が効いた。これまでどんなに忙しくても会社を休んだことはなかった。そのまま仕事を休み、外で奥さんとランチをとりながら話しこんだ。「一度きりの人生、楽しくてもっとワクワクしながら生きていきたい!」。そう思って数日後には会社を辞めた。

昔から多くの人を呼んだり、人を紹介するのが好きだった。この町で暮らし、島本町をもっと素敵な町にしたい、人の輪のつながりをもっと作りたいと思い、カフェ開業を決意した。奥さんも背中を押してくれた。

そこからの行動が迅速だった。さっそく自分で事業計画を整えた。店舗のホームページやデザインの作成のため、職業訓練校でWEBデザインを学ぶ傍ら、コーヒーの修業を始める。コーヒー好きとはいえ、そもそも淹れ方や焙煎の仕方は素人である。さっそくいろいろなコーヒーショップにメールを送り、唯一京都のコーヒーショップが手を挙げてくれたため、そこで修行することができた。

もう一つ「コーヒーに合う焼き菓子」の製作にも挑戦する。島本から外に出ていくとき土産物がないとうすうす感じていたため、自分たちの手作りかつ、店内で全てが完成できる焼き菓子を作ろうと考えたのである。幸いフランスで本場の料理の学校を出ている親戚が東京にいたため、すぐさま連絡をとり、泊まり込みで焼き菓子づくりの修業をし、お菓子を完成させた。まさに「目の前のことに全力投球」である。さらに快進撃は続く。

現店舗の大家に会いに行き場所の確保にこぎつけると、次は店舗の工事である。子育て層が入りやすい店にもしたかったため、ベビーカーでも入りやすいような入口にした。

そうして令和5年11月、ついにオープンした。開店時間は朝活する人がコーヒーを飲めるようにと午前7時30分とした。「いろいろな準備に手間取り、店を出たのが当日の朝5時でした。今となってはいい思い出です」。

 「ルート3」という店名の由来であるが、まず「3」という数字に不思議と縁があった。名前の三藤、三兄弟の末っ子、会社員時代は営業第3部、住んでいるのは三島郡といった具合だ。「ルート」は日本語の「根(ね)」という意味で、「島本町に根付く」という意味を込めている。ロゴもまた「人の輪を広げる」という意味を込め、ルート3を円で囲う形となっている。

 情報発信にも力を入れたことも奏功し、オープン初日から来客者は多かった。なかにはオープン当時から通い続けている猛者もいる。コーヒーを片手にお客さん同士で会話が盛り上がり、イベントに発展したこともある。三藤さんの期待どおり、ルート3は「人の輪を広げる場所」となった。

 「来店していただいたお客様に、来店時より元気になってお帰りいただくことですね。少しの時間ですが、できる限りコミュニケーションをとり楽しい時間を提供したいんです。“1日、1ファン”を目指しています」

 コミュニティの希薄化が叫ばれて久しい。三藤さんのROOT3 COFFEE は今後も、人と人とをつなぐ温かな場所であり続けるだろう。1ファンとして今後も立ち寄りたいと思う。

取材・文・撮影 – SMALL編集部