先が分からないからこそ楽しい

先が分からないからこそ楽しい

〜今月のこの人〜

亀山 晶美さん

◆10年以上毎日欠かさず

恥ずかしながらの告白だが、筆者はとても飽き性である。定番の日記も、三日坊主とまではいかなくとも一週間以上続いた試しがない筋トレにいたっては、「やるぞ!」の掛け声だけで終わる。そんな筆者にとって、10年以上毎日欠かさず続けている!と聞いたときの驚きは想像に難くない。

 亀山さんはカッターやデザインナイフなどで消しゴムを彫って作る“消しゴムハンコ”の作家である。オリジナルのイラストから生まれる作品やオーダーメイドにも対応し、ハンドメイド通販サイトでも人気を博している。地域のイベント“しまもと手づくりコミュニティ市”では実行委員長としても毎回出店しており、その作品を手に取ることができる。

 亀山さんが消しゴムハンコを始めたころから毎日続けているのが、「毎日一個、消しゴムハンコを作る」ことである。“1Day-1Make消しゴムハンコ”と題し、平成25年の11月にスタートした作品作りは昨年10周年を迎え、その記念として今年4月に高槻市のギャラリーで個展を開催した。

 「会社勤めをやめて起業はしたものの、なにをしていいか分からなかったんです。とりあえず練習とハンコのネタ探しをかねて、数をこなせばどうにかなるだろうと思って(笑)」。

◆SNSを活用

身の回りのものはなんでも作品のネタにし、日々のニュースや他人との会話の中で興味の惹かれるものがあれば、イラストを描いて彫る。デフォルメされたかわいい動物から、モンサンミッシェルなどの世界遺産シリーズのような写実的で緻密な作品まで幅広い。彫って納得のいかない作品でもとりあえずSNSに投稿する。そういった作品は、同じモチーフのものを何度もデザインしなおし次のネタにする。

 昔からクリエイターを目指していたわけではない。ましては消しゴムハンコ作家になるとは思ってもいなかった大学を卒業し、入社した小さな会社でシステムエンジニアとして働いていた。通販サイトなどのシステム開発に最初からすべて関わっていた。仕事の一環で楽天市場の備長炭のネットショップを任される。当時、楽天主催のネットショップ講座で情報発信の重要性や売り方を学び、ただ売るだけではダメだとさまざまな工夫をした。

 その一つがお客様を巻き込んだ備長炭の研究会。課題をクリアするごとに賞状がもらえる仕組みで、その賞状用にと自分で作ったハンコをSNSにアップしたところ、反響が大きかった。スタンプ用のさまざまなインクやハンコの使い方の幅広さなども知り、そのおもしろさとその可能性に惹かれ作家の道に進むことになる。消しゴムハンコの奥ゆかさを知ってもらいたいと、島本町内の手づくり市や、依頼をうけて大阪市内の「咲くやこの花館」でワークショップをおこなっている。

 長い間続けているからこそ、ざまざまな出会いがあった。起業後に確定申告などの相談で頼ったのが商工会であるが、その商工会が主催する手づくり市の運営に関わるようになり、ふるさと案内ボランティアや地元工務店、近隣で活動する多くの作家仲間など、会社員時代にはなかった地域でのつながりを得た。その中で得たつながりから最近ではテレビ取材を受けることもある。

 SNSでは趣味のフィギュアスケートをモチーフにした作品を出すことも多く、スケート仲間にシェアされる中で、初めて会う方から「あの消しゴムハンコの亀山さん?」と言われることもしばしばあるという。

◆楽しいことをしていきたい

今後の目標をたずねると、「これからも楽しいことをしていきたい。“1Day-1Make消しゴムハンコ”をギネス記録に登録したいですね。消しゴムハンコ作品だけでなく、イラストを焼き印にしたいです」と常にアグレッシブである。そのためデジタルイラストの勉強も始めている。お客様に言葉で説明するよりも分かりやすいからと動画配信サイトYoutubeで消しゴムハンコの使い方を動画にすることにも本格的に挑戦しはじめた。

「将来は、公共施設やホテルに自分の作品を飾られたいです。寺社からの御朱印用のご依頼も多いので、自分のハンコが押された全国の寺社の御朱印集めをしたいですね」

 「先が分からないからこそ楽しい」とも語る亀山さんは、今後も自分の“おもしろい”を探求し、すてきな作品作りに邁進していくだろう。

取材・文・撮影 – SMALL編集部