変わらないスタイルで40年

変わらないスタイルで40年

〜今月のこの人〜

高橋優(たかはし まさる) 高橋商店店主

■夜勤明けの方たちの至福の場所

阪急水無瀬駅の改札を抜けて、北西側に出ると「和洋酒 たばこ」と大きく書かれた青色の看板が目にとまる。その看板の下には「高橋商店」と書かれていた。その高橋商店店主の高橋優さんが今回の主人公である。

 取材当日午前十時にお店へ出向いた。不思議なことに店の中から何やら賑やかな声が聞こえてくる。のれんをくぐると、6、7名ほどのお客さんが和気あいあいと談笑していた。早い時間なのにお客さんが多い。「夜勤明けの方々がいつも来てくれるんです」と高橋さんは言った。午前中から開いている飲み屋が少ないなか、この場所は夜勤明けの方たちにとっても至福の場所でもあったのだ。

 高橋商店は、昭和30年に自転車の預かり所として高橋さんのご両親が開業した。その後、たばこの販売を開始し、昭和40年に酒屋も始めることになる。そこから、今の昼飲みができるスタイルが確立された。高橋さんが25歳のころにお店で働くようになり、現在では40年ほど経つことになる。現在では宅急便、クリーニングもこなす。

 妻と娘、高橋さんのお姉さんがパートとして一緒に店を切り盛りしている。高橋さんが、お店をしている中で特に大事にしていることは、地元の方に好かれることだという。島本町で生まれ育った高橋さんだからこその理由だろう。

■コミュニケーションが生まれやすい場所

このお店の良さは、常に自然体で不変しないこと。かつて、会社帰りにいつも寄ってくれていた常連客が定年してから数年後に水無瀬に降り立った時に、変わらず駅前にたたずんでいた高橋商店を見て、懐かしい気持ちでいっぱいだったという。他にも定年した後でも訪れているお客さんは多いだろう。

 お店には、お酒をはじめお菓子やおつまみが陳列されている。それをお客さんが各々取って飲み食いする方式である。会計の段になると、高橋さんはすかさずそろばんを取り出し、パチパチとはじき始めた。ここでは、お客さんが飲み食いしたものは、自分の前に置いておく。それをもとに高橋さんがそろばんで勘定を行なうのだ。このスタイルも粋である。

 それにしてもとにかく安い。世間では千円でべろべろに酔えることから「せんべろ」という言葉があるが、高橋商店はまさに「せんべろ」の店である。いろいろな種類のお酒やおつまみが置いてあり、それを自分で取りにいくスタイルである。立ち飲みなので、お客さん同士の会話が生まれやすい。実際ここで仲良くなり、そのまま2軒目に一緒に行くといったようなこともある。そういった人と人とのコミュニケーションが生まれやすい場所でもあるのだ。

コロナ禍ではとても大変な日々が続いた。知り合いの酒屋も何店舗か店を畳んだという。なかなか外で飲むことが難しい状況のなか、家で飲むためにと常連のお客さんがお酒を買いに来てくれた。

 「おかげさまでお店を畳まずに済みました」

 お店の良さだけでなく、高橋さんの人柄がお客さんをそうさせたのだろう。

■千人は無理でも十人には役立っている

最近では、電子マネーの決済が主流となっているなか、高橋商店でも導入を始めた。昔ながらの雰囲気を守ることも大切だが、時代の波に乗らなければいけないこともある。いっそのこと注文専用タブレットを使えば会計も楽ではないかと思いきや、そこはさすがの高橋さん。商品の価格がすべて頭の中に入っており、そろばんでさっとはじきだす。長年続けてきたキャリアでいとも簡単にこなしてしまうのである。

今後の展望を尋ねると、「焦らずこのままの状況を続けられるようにしていきたい。自営業をされている方は皆さん同じだと思いますけどね。日々の仕事をこなしていくことで精一杯。常に自然体でいることです。こういう場所があってよかったなと思ってもらえたらそれだけで御の字です。お客さんから感謝されることが一番うれしいです。千人の役には立っていないだろうけれども、十人ぐらいの役には立てているんじゃないかな」と笑いながら語った。

高橋さんには、娘さんが2人いる。いつかはこの店を継いでもらいたいと考えているようではあるが、自身がまだまだ元気に動けるので、まだまだ具体的には考えられないという。たしかに自転車、たばこ、お酒、宅急便、クリーニングとさまざまなことを日々やり続けているからか、引退される様子が全く想像つかない。これからもお店と同じく変わらずにいてほしいものである。

取材・文・撮影 – SMALL編集部