フィルム型ペロブスカイト太陽電池で世の中を変える

フィルム型ペロブスカイト太陽電池で世の中を変える

〜今月のこの人〜

宇野智仁さん(うの ともひと) 積水ソーラーフィルム株式会社・開発グループCSチーム長 

◆次世代型太陽電池の本命として

 気候変動問題は喫緊の課題であり、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの排出量削減が日本のみならず世界各国で議論されている。今後の未来を見通す限りにおいては、太陽エネルギーの利用拡大が頼りとならざるをえない。太陽エネルギーは枯渇の心配はなく、無尽蔵に供給が可能だからである。しかし、エネルギー密度が低いことから大規模な土地の確保がどうしても必要だった。

 現在、太陽光パネルのエネルギー効率は20パーセント程度とされ、専門家の試算では、日本の土地の約5・5パーセントに太陽光パネルを敷き詰める必要があるという。これは四国全土よりやや広い地域を太陽光パネルで覆いつくすことを意味する。休耕地や工場跡地といった比較的大規模な土地の利用だけでなく、住宅やビルの屋上などの小規模な土地についても、できる限り有効に活用していかなければならない。しかし、現在主流のシリコン製太陽光パネルの重量や形状では、小規模な土地に設置するのは容易ではなかった。

 しかし、ここに一筋の光明が見えはじめている。それが島本町にある積水化学工業が開発している、薄くて軽量の曲がる「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」である。シリコン製太陽光パネルと比べ、重さは10分の1、厚みは20分の1程度であり、さらに曲げやすいこともあって、次世代型太陽電池の本命として期待されている。

 ただ水分に弱く耐久性に課題があった。積水化学は元々積水化学自体が有する液晶向け封止材(精密部品などを熱、湿気といった外的要因から保護する材料)などの技術を応用し、液体や気体が内部に入り込まないように工夫をし、10年相当の耐久性を実現させ話題を集めている。

◆できないことをできるようにする

 このペロブスカイト太陽電池を積水化学では平成25年ごろから研究しはじめた。もちろん順風満帆に開発事業が進んだわけではない。

 「この太陽電池自体の部材を選定する際、とくに封止材の技術確立に注力をしました。まだ世の中にないものを作る、当然どう作るのかも1から考えないといけない状況でした」 

 そう語るのは当時の開発チームの一人で、現在は子会社の積水ソーラーフィルム株式会社で開発グループCSチーム長を務める宇野智仁さんである。宇野さんはインターンシップ時代、別の太陽電池系の取り組みで、耐久性を高める封止の方法について成果を出していた。入社してすぐ当時の太陽電池の開発チームに引っ張られた。

 「封止材料のプロセス化を検討しはじめたところ、多くの製造開発経験者から『そんなことできないよ』と言われたことがありました。外注先でも大手の会社も含め10社近く断られました。『できないよ』と言われ続けたことが、すごくしんどかった。

 もちろん相手を責めるつもりはありません。開発者である限り、生みの苦しみや、リスクヘッジの重要さをみなさん味わっておられるのは分かっていますので。“できないことをできるようにすること”が私のミッションと思ってがんばっていたところ、1社だけ『試してみましょう』と言ってくれたんです。そのときは本当にうれしかったですね」

 このフィルム型ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば、耐荷重制約のある軽量屋根や外壁、曲面といったさまざまな場所での設置が可能となる。

 国も応援し、大阪・関西万博では、会場の西ゲートにできる巨大なターミナルのバス停屋根のうち250メートルにフィルム型ペロブスカイト太陽電池を載せ、約半年間これまでにない圧倒的な規模で実証実験をする。「2030年までには世の中に広まっていくような形にもっていきたいです」と宇野さんも熱く語った。

◆島本町から世界へ

 それにしても、今後のエネルギー技術に関し最先端を走っているのが、この島本町にある積水化学工業であったことに驚きを禁じ得ない。同社は、建材用の化成品、住宅建材や高機能プラスチックなどを中心に製造する大手樹脂加工メーカーである。その研究センターの一つとして1961年に島本町に建てられた。2020年には通りの向かい側に“未来につづく安心”を創造していくことを目指し「水無瀬イノベーションセンター(通称MIC)」を併設している。

 町内においては、地域住民と広く関わりをもっていた。現在でも「化学教室」と銘打って、中学校に対し、化学との積極的なふれあいの場づくりとして、自社製品を通して提案している。宇野さんも入社して2年目のときに化学教室に出向いている。

 「子どもたちの好奇心は、やっぱりすごいなって思います。すごく自由な発想というか、『どうしてそうなるの?』とかいろいろ聞いてもらえるんです。『個別にメールでお話を聞かせて』っていう子もいました」

 島本生まれといっても過言ではないフィルム型ペロブスカイト太陽電池。待ったなしの気候変動問題を解決するにあたって、宇野さんの想いを受けつぐ専門家が、近い将来島本町から世界に出ていくかもしれない、そんなふうに思わせる人だった。

取材・文・撮影 – SMALL編集部