ポン菓子で喜ぶ顔が見たい

ポン菓子で喜ぶ顔が見たい

〜今月のこの人〜

谷藤 弘美さん

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◆好きだったポン菓子で起業

谷藤弘美さんは、物心ついた頃からポン菓子が好きだった。小中学生の頃は、近所にポン菓子屋さんが来るたび喜び勇んで買いに行っていた。家にポン菓子があるときは、二つ違いの妹さんと競い合って帰宅するほど大好きだった。高校卒業後、島本町にある企業に就職する。それまで転々としてきたが、平成3年についに家族で島本町の住人となる。

「その当時江川住宅にもよくポン菓子を売りに来ていて、『ポン!』という音が聞こえたら、子どもと急いでお米とお砂糖を持っていって行きました」

53歳頃から将来は漠然とポン菓子屋さんができたらいいなと思っていた。「ふつうにポン菓子を売ってもね〜。何か差別化できないかな〜」と考えていたある日、島本センター入口に貼り出されていた1枚のポスターに目が止まる。

「離宮の水ブランド」認証事業者募集。その募集を見て、「せっかく離宮の水があるんだったら」と思い、有給を取りながら商工会に話を聞きに行った。退職を決意し、開業の準備を始めた。ご主人と退職の日が同じだったこともあり、ポン菓子で開業することを半年かけて説得した。ご主人も決意し、1年後の第2回目募集締切に間に合うように平成30年(2018)4月に起業、すぐ「離宮の水ブランド」認証事業者に応募し審査の結果認証された。

離宮の水以外にも、何かこだわりたいと考え、思いついたのが砂糖だった。砂糖大根から採れる「てん菜糖」と「てん菜上白糖」、それに沖縄県多良間島で採れる「純粋黒糖」の3種類を使用すると決めた。大阪のお米を使用することにもこだわり、現在は大阪府産を使用している。ポン菓子を作る機械はネットでも販売があったが、日本で唯一のポン菓子機メーカーが福岡にあるとわかり、車で購入しに行った。

◆店舗営業を開始

初めはJR西側の田んぼや町立体育館の横、歴史資料館近くの空き地を利用させてもらいながら露店販売を開始する。ノボリを立てての販売だったが、それを見つけて買いに来る人が少しずつ増えていった。

しかしここで問題が起きる。商品の個包装などは自宅ではなく、営業許可がある店舗でしないといけなくなる、と保健所で聞いたのだ。急いで空き店舗を探し始めることになる。いくつか候補物件が出てきたが、道路に面していることや広さなど条件が希望通りで、何より居抜きでキッチンもあったことから現在の場所に決めた。こうして令和3年1月に店舗営業を開始した。かつて自分の夢を会社の同僚に話した時、「とても楽しそうに笑顔いっぱいで話をしてるね」と言われた。その夢が叶ってうれしかった。店名はそれらを表現し「夢笑喜」とした。「喜」は、ポン菓子で皆さんの喜ぶ顔が見たい、という意味も込めている。

◆行動力で縁を結ぶ

谷藤さんと話していると、その行動力に驚く。余談ながら、昔から旅行が大好きな谷藤さんは、会社時代は計画を立てるのが得意で、社内旅行の全てのスケジュールを作成していたという。家族旅行も全て計画し、2カ月に1回は行っていた。

 「人との縁って大事ですね。いろんな方と話していますと、その会話の中にヒントや情報が得られるんです。それで徐々に種類が増えていきました」

吹田のサービスエリアで、一口サイズの商品とてんさい糖を使った商品を販売したときのことである。そのとき購入された方がすっかり夢笑喜さんのファンになり、わざわざ京都から買いに来てくれたりする。遠方では、静岡の方からも注文が入るそうだ。「なんでもチャレンジしてやっていたら、どこかでつながるんです」と優しい笑顔で語った。

実演販売の機会が増え始め、今では各地の商店街やお寺、さまざまなイベントなどにも参加している。ある駅前での実演販売のときのこと、ポン菓子が出来上がる時に出る「ポン!」という大きな音を聞いて、「どこかで爆発が起きたー!」と、駅の事務所に飛び込んだおばさんがいたという。「拡声器でお知らせしながら実演しました」。

◆ポン菓子で憩いの場所を

商品の中には味のついてないものもある。乳児にも大丈夫なので離乳食に使っていただいたり、体調不良の方のお粥にもできるからだ。また、咀嚼が難しい方の介護食にも使っていただける。ポン菓子は老若男女誰でも食べることができる開かれたお菓子なのである。

今現在、ポン菓子機での製造は町外で作っている。今後は、すべての作業を島本町内で完結させるのが夢である。もし古民家があったら子どもたちが遊びに来たり、年配の方がお茶でも飲んでもらえるような、そんな憩いの場所を将来持てたらと思っている。

 「千里の道も一歩から」が座右の銘の谷藤さん。令和6年4月に丸6年を迎え、2年前からかき氷も始めた。ご主人と二人三脚でコツコツと取り組まれていることが、一つずつ確実に身を結んでいっている。

取材・文・撮影 – SMALL編集部