お茶と包子と岡村夫妻

お茶と包子と岡村夫妻

〜今月のこの人〜

岡村紀子さん、友章さん

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茶農家と消費者をつなぐ

「おじいちゃん、僕が代わりに行って会いたい人や風景の写真を撮ってくる」

そう言って、平成26年(2014)秋、岡村友章さんは祖父の故郷である徳島県つるぎ町へ単身向かった。病床の祖父を見舞うたびに、故郷の話を懐かしそうに語る。その姿を見て思い立ったのである。祖父の実家の写真を撮りおえ、隣に住む方にあいさつに行った。祖父のことを話すと急に顔色が変わり、「お孫さんですか」と家の中へ招き入れてくれた。ふつうのお茶を出されたが、なぜかこの時だけは格別においしく感じられ、何杯もお代わりをした。

元々お茶好きではあったが、そこまで興味はなかった。しかしこの経験以降、「このお茶は誰が作って、どんなことを考えているのか」と気になった。日本茶の本を取り寄せて勉強したり、週末に茶農家を訪ねるのが趣味になっていく。

「今から思うと、ちょうどこのころ転機を迎えていたのかもしれないですね」

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自分の個性を発揮できないサラリーマン生活に嫌気がさし、妻の紀子さんに愚痴をこぼしていた。日本茶を勉強し、茶農家を訪ねるなかで、お茶を作った人のルーツ、栽培された土地やその風土を、自分が直接お客さんに届けたくなった。

その後、本屋で地域密着型の「フリーペーパー」の図鑑を見つけ、夢中になって読んだ。「自分も地元との関わりを表現してみたい。まちのために何かしてみたい」と感じ、フリーペーパー「しまもとノート」を創刊した。取材をすると、地元出身とはいえ、まだまだ自分の知らないことが多く、目の前の解像度が上がり視界が開けた。

日本茶の勉強や茶農家の訪問、「しまもとノート」発行によって、「いろいろな人の知られざる物語を歴史に刻み、伝えていきたい」という思いがますます強くなった。平成29年(2017)、岡村さんはサラリーマン生活に終止符を打ち、「にほんちゃギャラリーおかむら」として無店舗で開業した。扱うお茶は、生産者から直接話を聞き預かったものばかりである。「安全安心だけでなく人柄で選び、茶農家と消費者をつなぐのが役割と思っています」。

子どもを連れて台湾修行

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妻の紀子さんは岐阜県の出身で、二人は大学で出会い卒業後に結婚した。紀子さんも会社勤めであったが、育児休業からの復帰や第二子の妊娠出産を経て、保育所の待機児童問題もあり退職した。子どもたちを連れて友章さんのイベント出店などを手伝った。特にやりたいこともなく、子どもたちと向き合うことが中心の生活を送っていた。

友人宅へ遊びにいった時のことである。いろいろな小麦粉を使った料理本を見つけた。そこに載っている包子(パオズ)に軽い気持ちで挑戦してみた。包子とは、肉まんやあんまんの総称である。しかしこれが曲者だった。思っていたよりも難しく、うまく包むことができない。それが悔しくて何度も挑戦していくうちに、包子づくりにのめり込むようになった。

包子のお店に行っても味を堪能するだけでなく、職人さんの手元や設備ばかりを見ていた。水無瀬駅前商店街のパン屋「CoCo BAKERY」で、バイトをしながら発酵生地の扱いを学んだ。同じ商店街の「Smile village ハルカフェ」の赤羽さんから声をかけられ、夜時間を使って「ノリコの包子ナイト」がハルカフェで不定期にスタートする。

軽食としてではなく、さまざまな種類の包子を選んで「一つの食事」として味わってもらうために、肉まん以外の包子を求めて、家族4人で台湾へ視察に行った。帰国後に学んだことを実践しているうちに、より包子を学ぼうと、今度は子供2人を連れて、再び台湾を訪れた。一見のほほんとしたイメージの紀子さんだが、その行動力に驚かされる。「高校、大学、社会人と、演劇をしていました。本番に近づくほど形になっていく、その過程が好きでした」。包子への飽くなき追求の源泉は、ここで培われたのだろう。

 

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思い入れのある槇珈琲店で

そんな二人に商工会から空き店舗の紹介があった。水無瀬駅前商店街の元「槇珈琲店」である。それを聞いて友章さんは運命的なものを感じ、ここに決めた。というのもこの槇珈琲店こそ、次回の「しまもとノート」特集に組む予定の店だったからである。友章さんはよくここに通い、店主の新田さんと話し込んでいた。昭和45年(1970)から切り盛りしてきた物語を、歴史の彼方に去ってしまうのが惜しく感じ、執筆することを決意していた。

令和3年7月、一つの店内で友章さんが日本茶の販売を行い、紀子さんが包子を提供する「岡村商店」がオープンした。槇珈琲店が古かったため大幅な改装となったが、店主の人柄や店の雰囲気も好きだったため、何らかの形で残したいと思い、象徴的なカウンター、イス、テーブル、床などは、現在の店舗でも使用している。「岡村商店」は、日本茶や包子だけでなく、人や歴史とも出会える場所なのかもしれない。

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【営業情報】

住所:〒618-0014 大阪府三島郡島本町水無瀬 2-3-9 水無瀬駅前商店街内

電話:075-204-9688( 営業時のみ。店内業務のため出られない場合があります )

Eメール:info.okamurashouten@gmail.com

アクセス:阪急水無瀬駅 徒歩3分  JR島本駅 徒歩5分

駐車場:周辺のコインパーキングをご利用下さい(駐輪場はございます)

取材・文・撮影 - SMALL編集部